真鍋大度。恵比寿のライゾマティクスオフィスにて 撮影:編集部
デジタル技術を駆使し、人とテクノロジーの関係を探求し続けてきた真鍋大度。2006年にRhizomatiks(ライゾマティクス)を立ち上げて以降、アートやエンターテインメントといった領域を横断しながら、Perfumeやビョークなどのアーティスト、多数の企業とのコラボレーションも手がけてきた。研究者、技術者、チームメンバーとともにプロジェクトに取り組む姿勢と、「表現者」としての真鍋大度に触れるべく、話を聞いた。
──去年、2021年6月まで東京都現代美術館で開催されていたライゾマティクス(以下ライゾマ)の個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」を拝見して、ライゾマがトライアル・アンド・エラーを重視されていること、その過程にこそ現れる表現や醍醐味を改めて実感しました。作品を完成させることにはそれほど執着していないようにも見えたのですが、いかがでしょうか?
ワーク・イン・プログレスを見せるほど、完成にこだわっていないわけではないです。やはり展示で見せる時は一旦完成・区切りがありますし、それがなかったらダラダラとやっていると思います。むしろ完成形というよりは、つねに最新のものを見せたいのかもしれません。都現美での展示も、会期中1ヶ月間の臨時休館があったので、その間にアップデートを加えました。そういう意味では、最新の状態に持っていきやすいのは、ギリギリまでチャレンジができるパフォーマンスですね。
とはいえ、僕らは作品を売ることが少なく、誰かの手に渡ったあとは手を加えることができないっていう状況になることはあまりないんですよね。


──作品を売りたいという意欲やモチベーションはありませんか?
希望者がいる場合は売ることもあります。ただ、作品が自分の手を離れるとなると、メンテナンスや耐久性をどうするか、その作品を長く存在させるためにはどうするかと全然違う思考が入ってきます。商業施設などとのコミッションワークではもちろんその思考回路を働かせますし、得意でもありますが、自分で自由に作品を作れる場合には、そういった形態では満足いかないかもしれません。
──モニュメンタルで権威的な作品を志向するアーティストも多いと思いますが、そういった「形式」にはこだわらないということですね。
僕ひとりでやっているわけではないというのもありますけれど、いまのチームでそういったマインドになることはあまりないですね。ただ、2020年に「パビリオン・トウキョウ2021」の一環として、ワタリウム美術館の向かいの空き地で、普段はほとんどやらないパブリック・アートをやったんです。それは本当に良かったですね。シアターや美術館での展示では、お客さんはそれなりに集中してみてくれるんですが、パブリックアートは全然興味がない人にも見てもらえる。みんな好き勝手に感想を言うし、街の風景になっていく。インタラクティブになっていなくても、意外と面白いことがいろいろできそうだなと。今後もやりたいです。

──メディアアートやNFTアートについては、歴史の無視、美術の軽視、これはアートなのかといった議論がついて回りますが、歴史や文脈について、真鍋さんはどのように意識されていますか?
日本では、長く美術界にいる人は保守的で、新しいことをやっている人たちは歴史に興味がない人が多いので、そこには大きな壁がありますよね。その結果、新しいムーヴメントが出てきた時に歴史を踏まえて語れる人が少ない。そういうことを言える人が出てくれば、新しい作家たちは歴史を意識するようにもなるし、逆にいままで培われてきたものが見直されたりすることがあると思います。
AIが出てきてからは本当に目まぐるしく、キャッチアップしていくのが大変です。それなりに努力しないと、最新の「AI×アート」がどんどん分からなくなってくるんです。いまはそこにまたNFTとかが出てきてさらに複雑になっているので、余計にちゃんと語れる人が必要ですよね。
──チームでの制作スタイルについて教えてください。皆さんでアイデアを出し合って作り上げていくのか、もしくは真鍋さんのアイデアを実現していくのでしょうか。
作品ごとに、誰かしらがディレクター的な役割を担っています。都現美で展示した《RTK Laser Robotiks Experiment》(2021)というGPSの情報を使った作品には、僕はまったく関わっていません。完成後に見て、「面白いものが出来上がっているなぁ」と思いましたね。これまでどうしてもエンジニアでありアーティストの石橋素さんと僕が指揮を取ることが多かったのですが、今後はできるだけやりたい人がやるという風潮にしていきたいなと思っています。
僕が中心になって制作する時は、その作品の重要性、なぜいまそれをやる必要があるのかということを書いて、最初にスタッフ全員に渡します。自分のメモという意味もありますが、制作チームとは毎回そうやって共有するようにしています。

──指揮者のようですね。それぞれのパートにある程度委ねつつ、総合的なところはちゃんと見るという。
そうですね。本当は言語でシェアせずに、実験を重ねてそれだけで進めば良いこともあるんですけれど、テキストにはまとめるようにしていますね。
それから、展示の際はいつもなるべく協働者との連名で出しています。例えば「Reborn Art Festival 2019」に出品した《dissonant imaginary》という作品は、脳情報学者の神谷之康さんとやったので、「真鍋大度+神谷之康研究室」というかたちに。美術業界にはびこるマナーというかしきたり的にはアーティスト個人を立てたいという風潮があるのか、通常はアーティストの名前だけが表に出て、研究者の名前って制作者クレジットにしか入らないんです。僕は美術業界ではなくオープンソースのコミュニティにいる人間なので連名に違和感はないのですが、美術館やフェスティバルでは、いつもそれが嫌がられます(笑)。
──わかりやすさや集客の面では、権威化するほうが都合が良いのかもしれませんね。オープンソースのコミュニティもそうですが、コラボレーション相手へのリスペクトの上に成り立つヒップホップカルチャーも彷彿とさせます。
たしかにヒップホップかもしれないですね、feat.(フィーチャリング)的な。神谷さんとの作品は脳波の視覚野の活動から何を見ているか推定するというものだったのですが、そういった特殊な研究やテクノロジーを用いて作品を作る場合、権威主義は通用しないと思います。
でも僕はそもそもそういう世界で成功がゴールではないと思っているので、それに抗おうともしていません。展覧会では普通にエンターテインメント的な作品も展示しています。「こんなのアートじゃない」というふうに見る人も絶対にいることは想定済みです。いまはどうしても作品そのものよりも、ニュース性があるか、マーケティングをどれだけ頑張っているかといった作品の周辺情報が取り上げられやすいと思うんですが、僕らは作品そのものの本質を見せていきたい。都現美では、キュレーターの長谷川祐子さんが「エンタメ」と「アート」という分け方はもはや古いという考えから、そのあたりを良く理解してくださり、本当にいつも通り展示させてもらいましたね。
──とはいえ、実際、真鍋さんとライゾマは美術業界で評価を受けていますし、どの業界でもそれぞれに存在感を示しています。都現美では、長谷川さんが「領域横断的」という言葉を用いていますが、あえて言うとするならば、軸足はどの領域に置いていますか?
エンタメかなぁ。エンタメとしてが一番自然に受け入れられているかもしれません。アートは自分たちの興味主体で作って「よかったらみていってください」っていうスタンスですけれど、エンタメはそうはいかない。お客さんのほうをバチバチに見て作っていきますよね。そこの見せ方はどうしても器用に分けながらやれてしまうんですけれど、本来そういう器用さって、とくにヨーロッパのほうだとすごく批判されるんです。一貫した神秘性のようなものがあったほうが作家としては成功するんだろうなとは思いますけどね。
──さきほどの連名問題にもつながる、アート業界の古典的な部分かもしれません。神格化するというか。
そうですね、僕らはいまさら神格化できないしなぁ(笑)。とりあえずいままで通りやるしかないです。
──これまでの作品のなかで、ブレイクスルーになった作品や活動はありますか?
僕が最初にAIや機械学習を取り入れた、顔に電気刺激を与えて無理やり動かす実験。ここから始まったデータ・ヴィジュアライゼーションは、その後の制作にも長いことつながっています。あとはダムタイプの藤本隆行さんと作った《Refined Colors》(2004)という作品。そこで初めてダンスパフォーマンスの面白さを知りました。色々な種があって、それが少しずつ結びついていくみたいなスタンスでずっとやってきています。
──真鍋さんは初期の頃からテクノロジーで身体に介入する作品を多く制作されていますが、真鍋さんにとって身体とはなんでしょうか。
まだまだ未知のものですね。ましてや脳になってくるとブラックボックス化しすぎて扱いが難しい部分もあります。テクノロジーを使うにしても、どちらかというと身体とかけ離れたものより、そのテクノロジーに人がどう影響を受けてどう変わるかとか、人とテックの関係性に興味があります。身体をモチーフにするのは、単純に面白いからかもしれません。
もともと、目をつむって音楽を聴いていると頭のなかに映像が出てくるというような感覚を、人工的に作ることに興味があったんです。音楽を聴くことで人の感覚や感情、視覚野がどう影響を受けるか。卒制の時は、たとえば20Hzの低周波を110~120dBで聴くと息ができなくなるとか、瞬きが止まらなくなるといった現象を使って作品を作りました。その延長が、ブレイン・デコーディングという技術を使った神谷さんとの実験的作品です。やっぱり、全部つながっていますね。
──最後の質問ですが、真鍋さんのロールモデルはいますか? あるいはその人の活動に励まされるという意味でどこか頭をよぎる人物がいれば教えてください。
そうですね……石橋(素)さんとかですかね(笑)。
もちろん外にリスペクトしている人は数え切れないくらいいます。アーティストで言ったら岩井俊雄さんとか、任天堂のプロダクトデザイナーの横井軍平さんとか、クリエイティブコーディングだとザッカリー・リーバマンとか。でも励まされるという意味では、基本的にライゾマのメンバーですね。
──リスペクトがあるチームって幸せな関係ですね。
みんなこれだけやってるから自分もやらなきゃ、といつも思うんですよね。
真鍋大度(まなべ・だいと)
ライゾマティクス主宰、株式会社アブストラクトエンジン取締役。 1976年東京都生まれ。アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。 東京理科大学数学科、国際情報科学技術アカデミー(IAMAS)卒。2006年株式会社ライゾマティクス設立。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動している。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)